卒業生の声 樫村 仁尊さん

Graduate's Voice

「自分探し」の時間を経て、じっくり考えて入学しました。
いざ、就職活動となると、同級生が刺激になりました。

リストランテ アクアパッツァ
樫村 仁尊さん

調理師科昼間部1年制卒(1995年3月)

1974年東京都品川区生まれ。卒業後「リストランテ アクアパッツァ」に入社。その後、イタリアと都内のレストランで修業したのち、広島県にある「マンジャペッシェ」(現 レガーレディアクアパッツァ)のオープンを機に再入社。5年後、東京・広尾にある本店「リストランテ アクアパッツァ」に戻り、現在に至る。

自分を表現しながらインスピレーションで料理を作るのが好きというイタリアンの樫村シェフは、素材を生かすメニューを愛し、パスタへのこだわりは人一倍。自分が「良い」と思うものを大切にする樫村シェフが、思い出のエピソードや、これまで学んできたことを、静かに熱く語ります。

「男一生の仕事」を決めるまで

調理の道に進むことを考えた理由は、母親を早く亡くしたことにあったと思います。最初のうちは、姉に食事の面倒を見てもらったのですが、やがて僕も料理をするようになりました。

中学生の頃、友達が自宅に遊びに来た時に、手料理をごちそうしたら「おいしい!」と喜んでもらえたことがうれしかったですね。好評だったメニューは「青チンジャオロウスー椒肉絲」。昔、母親が作ってくれた味を思い出しながら作りました。

商業高校に進学し、周囲には企業に就職する人が多かったのですが、自分はどうしようかと迷い、一年かけて考えることにしました。卒業後は、ペンキ塗りなどのアルバイトをしながら「自分探し」をしていましたね。「男一生の仕事」を決めるつもりだったので、じっくり考えたかったのです。

そんな時、僕の料理を食べたことのある同級生が「お前、料理好きだから、その道に進めば?」とアドバイスしてくれて、服部学園に入学することを決心しました。

いざ、服部学園に入学してみると先生は厳しく、授業も真剣勝負でした。自分もかなり負けず嫌いですが、「有名なシェフになりたい!」という熱い同級生に比べれば、ちょっと冷静に授業を受けていた記憶があります。それでも、いざ就職活動となると、有名なお店をめざす同級生から刺激を受けました。

「お前、やる気はあるか!?」

僕が作りたいのは、繊細で芸術作品のようなフレンチよりも、素材を生かして作るシンプルなイタリアンだと思い、料理専門誌で知った「アクアパッツァ」を志望しました。就職課の先生から紹介してもらったところ、当初は募集がないと言われました。

その後、青山店が開店することになり、募集がかかったんです。面接では、日髙シェフに「お前、やる気はあるか!?」と訊かれ、「はい!」と即答。その時のことは鮮明に覚えています。アクアパッツァに入店して、最初の三ヵ月は辛かったですね。一日中慣れない立ち仕事でクタクタでした。朝から日が暮れるまで働いて、気がつくと三ヵ月が過ぎていました。最初の三ヵ月を辛抱すれば、体も慣れるし、仕事の楽しさがわかってきます。ですから、現場に出た若い人たちには、とにかく三ヵ月間は辛抱して頑張ってほしいです。

パスタにこだわるその理由

料理の中で得意なのは「パスタ」ですね。シンプルなカルボナーラやミートソースにこだわりを持っています。なぜ、パスタにこだわるのかと言えば、フレンチとイタリアンを区別できるメニューだからです。フランスとイタリアは、歴史的にも民族的にも重なる部分が多く、料理においても境界線が曖昧です。でも、パスタだけはフランスではなくイタリア独自の食文化。だからこそパスタにこだわりたいんです。先日も、学生時代からの料理人仲間とパスタ対決をしたんです。プロがプロの味を互いに評価し合う中で、実は優勝したんです。同業者に評価されるのはうれしかったです。

感謝の気持ちを忘れない

もともと細かいレシピ本を見ながら料理するよりも、自分を表現しながらインスピレーションで作るのが好きなんです。料理では感性を大切にしたいですね。そのためには絵画などの芸術を鑑賞することも大事だと思います。誰かが良いと言うから良いのではなく、自分が良いと感じるものが良いのだと思いたいですね。

でも、もちろん感性だけが必要なのではありません。料理を教えるときは感覚では伝わらないものもあります。そういう時は、やはりきちんとしたレシピが必要なのだと、指導する立場になって感じます。自分自身、人や物事にしばられることは苦手なほうですが、時にはしばりも必要であることを学びました。

学生時代に厳しく指導してくださった先生たちの気持ちも今はわかります。そして、感謝の気持ちは忘れないようにしたいですね。若い頃は家族に心配をかけたので、いつか料理で恩返しできればいいなと思っています。

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