服部幸應 親が子どもに行う「食育」は、食の大切さやマナーを教える一生にかかわる大切なしつけといえます。しかし、それを成長してから伝えようとしても親や先生と子の人間関係がきちんとできていなければ、大切なことは伝えられません。近年、児童虐待や子どもが非行化する要因のひとつに、親子関係が十分に形成されていないことが挙げられていますが、これは子どもが大人になったときにもニートや早期離職など社会参画へ影響を及ぼす可能性もあります。親子関係は、子どもが対人関係を築くうえでの基礎となり、一生にかかわるものといってもよいでしょう。

親子関係を築くには3歳までが重要といわれていますが、生まれてから3歳までの間には4つの重要なステップがあります。第1は生後1時間、第2は2ヵ月までの間、第3は6ヵ月までの間、そして第4は3歳までの期間です。特に子どもが親を親として認識する刷り込み(インプリンティング)は生後6ヵ月ごろまでに完了するため、この期間に親子が互いに相手を欲する関係になることが望ましいでしょう。

そのときに大切となるのは、やはり食事の時間ではないでしょうか。「子どもが乳を飲む」ことは単なる食事ではありません。母親が授乳の際に分泌されるホルモン(オキシトシン)は母性行動を強め、絆を強くさせる働きがあるのです。また親と子が見つめる、話しかける、微笑みかける、抱きしめる等、スキンシップの時間をできるだけ増やすことで親子のつながりが刷り込まれていくため、互いが密着する食事の時間は関係を築き上げる絶好の機会といえます。逆に、3歳までの間に育児回避や長期間の離別などでスキンシップが不足し、互いのつながりがきちんと構築されないと、あとから再構築をしようとしても弊害が起きる可能性があります。

生まれてから3歳までの食事の時間は、子どもの成長にも、人間関係の構築にも大切な時間ですので、子育てにおいてはこの時期をぜひ、大切にしてください。言うなれば子育ても食育も、人が最初に口にするお乳と食事から始まっているのです。

 

記事提供元:『さわやか』2013年冬号 制作/社会保険研究所